Yanase Derma’s Diary

皮ふ科専門医による皮ふ疾患や論文などの紹介です。https://www.yanased.com/

【まれな皮ふ疾患】Angioedema with Eosinophiliaについて

おはようございます。

 

本日は16時に仕事をきりあげて17時の便で福岡へ出張し

19時より講演会で西日本配信講演会の依頼を受けております。

9/30(土)の本日、クリニックは16時以降の受付はしておりませんので

お気を付けください。

なお来週はアトピー性皮膚炎の講演で佐賀県にお呼びいただいたので

来週の10/7(土)も16時にクリニックを閉めますのであわせてご留意くださいませ。

 

最近経験した患者さんで

先日、じんましんのかたがおいでだったのですが

ヒスタミン薬を処方の一週間後、

再診されたときに足が腫れました、とおっしゃったので

まさかangioedemaではあるまいな、と思って

採血をすると翌日にデータがfaxで送られてきました。

 

通常、総合病院では採血結果は1時間程度で返ってくるのですが、

開業医では通常外注の血液検査ですので翌日以降にデータが返ってきます。

ただ、データが異常値でしたらパニック値と呼ばれるのですが、この場合

急ぎで返却されてきます。

 

じんましんにともなって四肢が腫脹する場合

好酸球性浮腫、いわゆるAngioedema with Eosinophiliaの可能性があり

念のため採血とプレドニゾロン10mg/日を全身投与しました。

 

返ってきたデータはパニック値で、なんと好酸球が43%(!)(実数4000/ul)

好酸球の正常値は3-5%前後で、

好酸球がときに上昇するアレルギー疾患である

アトピー性皮膚炎でも好酸球の値はせいぜい10%程度です。

 

好酸球が増える疾患を好酸球増多症(HyperEosinophilia; HE)というのですが

①軽症:500-1500/ul ②中等症:1500-5000/ul ③重症:5000~/ul

と分類され(JACI, 2012; 130: 607-612),

HEのうち臓器障害を伴うものを好酸球増多症候群HESといいます。

HESのうちには、好酸球性肺炎/心筋炎/胃腸炎 などがあります。

 

一方で内臓の障害を伴わずに

①血管浮腫 ②体重増加 ③じんましん ④発熱 

を繰り返す症例が1984年に報告され、

episodic angioedema with eosinophilia(EAE)と命名されています。

治療はステロイドの全身投与でこれが著効し、血中のIgMという免疫グロブリンというたんぱく質も増加の報告があります。

 

この度の患者さんも採血時にきちんと測っていて

このかたは幸い正常値でした。

一過性のかたはnon-episodic EAとされ、こちらは軽症型になりやすいとされます。

EAEとNEAEの差異(日皮会誌, 2008; 118, 925-931)

若年性の女性であれば浮腫は四肢に限局し、血清IgMも上昇しないこともあり

低用量のステロイドの内服で改善することもあります。

 

Non-Epiodic Angioedema with Eosinophilia

【病因】

NEAEの場合90%が6月から11月に発症し、虫刺症やワクチン接種、マイコプラズマ感染症後、舌下免疫療法後などの報告がみられ、何らかのイベントが引き金であることがあります。

【症状】

四肢を主体とする指圧痕を残さない浮腫で、まれに体幹や顔面の浮腫を伴うこともあるようです。内臓病変は原則生じませんが、関節痛や血栓症、溶血性貧血、甲状腺機能異常症をともなうこともあると報告があります。20%を超える患者に何らかのアレルギー疾患を合併する、とか、25%に膠原病でみられる抗核抗体が陽性であったという報告もあります。

【治療】

一般的に抗ヒスタミン薬や経口ステロイド薬が用いられます。自然軽快も期待できますが、ステロイドを全身投与したほうがNEAEの全経過期間を短縮できると報告されています。またIgMの上昇がステロイドの投与と関連するかは不明と報告されています。

 

 

このかたはご説明のうえ、

総合病院でなく当院で治療を完結させてほしいとご希望でしたので

私が定期的に採血しつつフォローすることとしました。

 

 

じんましんで四肢がはれてくる場合、今回のように好酸球性浮腫の可能性が考えられ
(唇や目のまわり、顔面が腫れるのを血管性浮腫とよばれこれは異なる疾患です)

これがきちんと診断されて治療されているのか、

総合病院に紹介されればよいのですが

診断されずに繰り返しておられるかたもあるのではないかなと思いました。

 

当クリニックを開業してそろそろ半年が経過します。

もちろん軽症から重症までのアトピー性皮膚炎や乾癬なども

多数診断治療しているのですが(ニキビ治療が最も多いですね)

 

自験例の Angioedema with Eosinophilia やら

未診断の皮膚筋炎、

基底細胞癌、ナイアシンフラッシュやLMDF(2例)、色素性痒疹(2例)

(過去ブログ参照)

など比較的稀な疾患も結構診てきました。

これら比較的稀な疾患を見逃さず、適切に診断治療に導ける

ゲートキーパー(門番)としての開業医の役割は大きいなぁと思った次第です。

 

特に当院は複数のクリニックを回った結果来られる方も少なからずおられ

比較的患者さんの重症度は高めな気がしています。

総合病院時代と同じく難しい疾患のかたの治療ができるのはやりがいがあります。

もしなかなか治らない皮ふ疾患でお困りの方がおられましたらお越しください。

 

 

いま午前6時ですが

きょうは仕事後福岡出張もありますし長い一日になりそうです。

関西においてしゅさ/赤ら顔の治療で有名で、

仲の良い神戸の林先生もいらっしゃいますのでいろいろと情報交換してきます。

さてさて、きょうもいちんちがんばりまーす!