Yanase Derma’s Diary

皮ふ科専門医による皮ふ疾患や論文などの紹介です。https://www.yanased.com/

【皮ふ疾患まとめ】化膿性汗腺炎/慢性膿皮症~頭やわき、おしりに繰り替えすおでき~

みなさん、こんにちは。

紙屋町やなせ皮ふ科院長の柳瀬です。

 

以前から、頭やおしりに繰り返す〝おでき〟のかたが時々来院されます。

dermnetより引用 https://dermnetnz.org/topics/scalp-folliculitis

病態の本質は〝毛包炎〟といって毛穴に対するブドウ球菌などによる細菌の感染症なのですが、膿疱の形成と排膿などの炎症を繰り返すうちに慢性化し、ケロイド化(皮膚が固くもりあがること)し脱毛をきたしたり、ケロイド状の結節を形成し、乳頭状皮ふ炎とかケロイド性毛包炎と呼ばれるような病態引き起こすこともあります。

特発性毛包炎 MB Derma, 303.2020より引用

治療は、局所の保清のほか、

・抗菌剤の内服や外用、局所注射

ステロイドの外用や局注

・切開排膿

・慢性化した病変には切除や植皮

・重症例にはTNF阻害薬注射(アダリムマブ)

などの方法が挙げられます。

 

病態として、慢性膿皮症は単なる皮膚感染症ではなく、

発症には体質的な要因:肥満、喫煙、耐糖能異常、脂漏体質や習慣的な外的刺激の関与の指摘があります。

また、本疾患には家族歴があることから好中球などの免疫異常の関与が推定されており、γセクレターゼをコードする遺伝子に変異が認められると報告されています

(J. Investig. Dermatol. 2012;132:2459–2461)。

 

Cells. 2021 Aug 15;10(8):2094.にReview(まとめ)がありましたので

治療を添付し邦訳します。

膿皮症の治療オプション

ステージ I (軽度):瘻孔や瘢痕化のない単一~複数の膿瘍形成 
衛生状態維持、禁煙、体重の減量 *
局所クリンダマイシン、消毒薬
病変内コルチコステロイド
切開、排膿、デルーフィング(天蓋切開)、レーザー


ステージ II (中等度):瘻孔や瘢痕化を伴う再発性膿瘍形成

全身性抗生物質: テトラサイクリン、クリンダマイシン + リファンピシン、リファンピシン + モキシフロキサシン + メトロニダゾール、エルタペネム
免疫調節物質: プレドニゾロン、レチノイド、ダプソン、シクロスポリン 局所介入
デルーフィング レーザー

ステージ III (重度) 領域全体にわたるびまん性、複数の瘻孔や膿瘍形成
生物学的製剤:アダリムマブ、ビメキズマブ(第III相)/セクキヌマブ(第III相)、
広範な根治的外科的切除

 

ということで、重症例以外は

ダラシンローションなどの局所抗生剤やBPO(ベピオ)などの外用、

ケナコルトの局注で正しい治療だと判明しました。

 

私は経験的に好中球機能を抑制するコルヒチンの内服治療を追加し

経過は比較的良好だったのですがレビューに記載されていない

・・・と思ったら、本邦の化膿性汗腺炎の手引きには記載がありました。

 

 コルヒチンは微小管重合阻害を介してインフラマソームによる caspase-1 活性化や IL-1β 産生などに関わる細胞内シグナル伝達経路を阻害する.同時にコルヒチンは好中球に蓄積し198),細胞接着分子の発現や顆粒分泌,細胞遊走,貪食を抑制する

https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/kanoseikannsenenn2020.pdf

(化膿性汗腺炎診療の手引き 2020 日皮会誌: 131, 1-28, 2021)

コルヒチンはMINOなどのTC系抗生剤と併用は十分ありのようですね。

ただし定期的な採血や検尿による精査は必要と書かれていますし

適用外使用ですので患者さんへの説明と同意は慎重に行う必要があります。

 

好中球の機能が亢進した疾患は、ここに挙げる慢性膿皮症のほか

ベーチェット病重症な炎症性ざ瘡壊疽性膿皮症や炎症性腸疾患、

ブドウ膜炎などいくつかの類似した病態があり重複することがあります。

 

化膿性汗腺炎からベーチェットの診断に至った患者はたくさん診断してきましたし

そのような患者さんは結構おられるかもしれません。

 

また時間があるときにupdateします。

 

本日は昼休憩の時間で、化膿性汗腺炎/慢性膿皮症のupdateをおこないました。

 

頭やわき、おしりに繰り返すおできでお困りの患者さんがおられたら

どうぞご相談ください。